全国市民オンブズマン連絡会議は、2016/2/26に「地方公共団体の長等の損害賠償責任につき軽過失免責とする方向での住民訴訟制度の改悪に断固反対する」声明を発表しました。
http://www.ombudsman.jp/data/160226.pdf
内閣総理大臣、総務大臣、地方制度調査会長に郵送しました。
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地方公共団体の長等の損害賠償責任につき軽過失免責とする方向での住民訴訟制度の改悪に断固反対する
2016年(平成28年)2月26日
全国市民オンブズマン連絡会議
2015年12月15日、第31次地方制度調査会専門小委員会は、「人口減少社会に的確に対応する地方行政体制及びガバナンスのあり方に対する答申案」を発表し、その中で、地方公共団体の長及び職員(以下「長等」という。)に対して損害賠償請求を求める住民訴訟において、長等が軽過失しかない場合には免責とする見直しの方向を示した。住民訴訟制度は、違法な財務会計行為を是正し、また、これを予防するうえで大きな役割を果たしてきた。情報公開と住民訴訟制度は、徒手空拳の市民が、公の不正を明るみにして、これを糾すための限られた武器である。
今回の地方制度調査会の見直しの方向は、住民訴訟を骨抜きにし、住民訴訟の提起を封じようとするものであり、市民の唯一とも言うべき武器を奪うものに他ならない。我々市民オンブズマンは、次の理由から、この見直しに断固反対する。
1 軽過失免責とした場合、住民訴訟の提起が抑制され、制度は骨抜きとなる。
これまで、数多くの地方公共団体で、住民や市民オンブズマンが、住民訴訟制度を武器に、違法な財務会計行為の是正を求めてきた。例えば、官官接待による違法な公金支出、職員への厚遇や違法な給与の支出、不当な金額での不動産売買、談合による地方公共団体の損害の放置等、住民、ことに市民オンブズマンが、住民訴訟の対象とした事案は枚挙にいとまがなく、いくつかの事案で、勝訴判決を勝ち取ってきた。
勝訴判決を得て、一定の損害回復がなされることは勿論のことであるが、住民訴訟の提起自体が、将来においても、また、他の類似事案においても、長等の予算執行に緊張感をもたらし、違法な財務会計行為に対して抑止的効果をもたらしてきた。
例えば、かつて多くの地方公共団体では、公務とは関連性のない高額な接待に食糧費が支出されていた。これに対して、各地のオンブズマンは、食糧費支出の違法を主張して、長等への損害賠償請求を請求してきた。全ての訴訟に勝訴したわけではないが、住民訴訟を提起されるというリスクは、公費による違法な接待を抑制し、さらには、その財源である食糧費予算自体の大幅な抑制をもたらした。
このように住民訴訟制度は、議会のチェック機能が十分とは言えない状況が多数ある中、地方自治体の違法な財務会計行為を抑止し、健全な財政運営に資する重要な役割を担っているのである。
これに対して、答申案は、違法な財務会計行為等により長等が負う損害賠償義務について、軽過失の場合に免責する方向での見直しを示している。これは、上記の住民訴訟制度の意義を無視し、これを骨抜きにするものに他ならない。
軽過失の場合に免責するということは、結果として、賠償責任を負うのは故意または重過失がある場合に限られるということである。
ところが、法文上軽過失が免責されていない現時点においてさえも、ほとんどの裁判例は、「通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態」、すなわち、重過失とも言うべき場合でしか、長等の過失を認めていない。残念ながら、既に、我が国の裁判実務では軽過失免責となっているのである。
このような司法判断の実情を見れば、法制度上も軽過失免責とすることは、長等は、故意の場合(もしくは極めて故意に近似する場合)でしか、違法な財務会計行為の責任を負わないこととなり、住民訴訟において、長等の責任追及することは、ほぼ不可能となり、その結果、訴訟提起自体も抑制されることになる。
このことは、事後的に違法な財務会計行為を是正するという住民訴訟の機能が果たせなくなるだけでなく、違法な財務会計行為を事前に抑止するという機能も失われることになり、その結果、長等による緊張感の乏しい、あるいは野放図な行財政運営をもたらすことになる。これは、結局のところ、地方公共団体に財政的な破綻をもたらす原因ともなりかねない。
2 制度の利用者である住民の意見を全く聞いていないこと
答申書の審議にあたって、長等の代弁者である全国知事会、全国市長会、全国町村会は、その代表者が委員として審議に加わり、さらに代表者の意見聴取が行われているにもかかわらず、住民訴訟の利用者である住民の意見は全く聴取されていないが、
長等の代弁者らの意見は、住民訴訟により長や職員が厳しい責任追及をされる場合があること、そのことが長や職員の事務への萎縮効果を及ぼしている旨を指摘する答申書案に反映され、軽過失免責を導く理由とされている。住民訴訟による責任追及が軽からんことを望む長らの要望がそのまま通ったのである。このことは、法定刑が厳しいので引き下げてほしいと言う泥棒の意見をだけを聞いて刑法を改正するようなものであり、あまりにも偏頗な暴挙であると言わなければならない。
住民訴訟制度の利用者である住民の意見を全く蔑ろにした本答申書案は、何らの正当性ももたない。
以上
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全国市民オンブズマン連絡会議
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